東京brary日乗

旧はてなダイアリー「東京brary日乗」から移行しました。2019/2/28

しびれる時計屋

学校の中にある時計屋で腕時計の電池を入れてもらう。先客があったので、前の学食でカレーを食べて出てくると、まだ済んでいない。以前友だちは昼休みをつぶしたと言っていて、今日は勉強したいから時間が惜しいが、一目みて、魅力に勝てない。友だちに大評判の時計屋さんは、禿げていてご高齢である。
時計屋さんのスペースは一坪しかない。時計屋なのに、サンスターヘアトニック、糸瓜コロン、安全剃刀、シーブリーズがなぜかひとつずつ置いてある。資生堂の「オーデコロン」もある。どれも、数年間売れた気配がない。


椅子に座って時計を渡すと、まず電池をみる。わたしの時計の電池は「521」であった。521の意味は、直径5ミリ、厚さ2.1ミリである。説明により、初めて知った。男物の時計はもっと大きい。前の人の捨てる電池を見せて、比べる。次に521の電池を磁力があるかどうか調べる機械にかけて、古いのが弱っているのと、新しいのが「緑の線」まで振れるのを見せてくれる。


店の上の方に学生部長の名で賞状がかけてある。時計屋さんが昭和7年から70年に亘り、本学に尽くしたことを表彰してある。最初に店を開いたのはお父さんで、当代は16の歳に仕事を始めた。徴兵では甲種合格だったが、行先が北支だったので死なずに帰って時計屋をやっている。仕事の机の上には、古いトランジスタラジオと、スピーカーのようなものがある。カセットがふたつ載っていて、「カントリー特集」と書いてある。平成14年度の学校のスケジュールと、誰かが撮ってくれた仕事中のスナップも貼ってある。


電池を入れた後、大きなシャーレのようなものにベンジンを入れ、竹串にティッシュを巻きつけて、部品の入っているところを拭く。ちいさなポンプのようなもので、ほこりも払う。その場合、機械のほうにむけて空気を送ってはいけないのだった(ほこりが機械に入るから。)。作業にはすべて意味がある、というのが時計屋さんの考えである。時計の内側の掃除は時計屋しかできないのに、みなしない。


わたしのは普通だが、前の人のは汚かった。持ってきたのは看護婦さんのようだったが、先生に頼まれた由。どれくらい汚かったか、前の人のを拭いたティッシュを見せてくれる。最後は日付である。時計屋さんは、電池に、入れた日付をペンで書くのである。わたしの、直径五ミリの電池に書くのである。書いてから、目にはめるルーペを貸してくれたので、どのように書かれているかみた。04/08/05と書いてあった。その字が書けるのが、時計屋さんの自慢である。わたしの時計は秒針がなくて、時間を正確に合わせられないのを残念がる。


「電池交換すぐ出来ます」と書いてあるのにすぐできないが、なおった時計をはめて外に出て、とてもうれしい。明日は、時計屋さんの八十八歳の誕生日。


♪猫の夜会ライブラリー映画部更新しました。「ガラス細工の家」
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