東京brary日乗

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先生とわたし

『先生とわたし』(新潮社)をよむ。
「先生」は由良君美、「わたし」は四方田犬彦
かつて自分にとってかけがえのない存在であった人と、何らかの理由で訣別しなければならなくなったとき、そのことを整理するのにはとても長い時間がかかる。それが重要であればあるほど、思いを人に伝えるのは困難である。だから、普通はそれだけの技量をもちえないという理由で、一生誰にも告げずに終わることのほうが多い。とくに恋愛関係ではない同性の場合。


しかしそれを記す唯一の方法を四方田犬彦は果たした。
本は、著者と由良との出会いから始まり、それがどれほど素晴しい日々であったかが綴られる。そして研究者としての由良のポジション、彼の背景を丁寧に記した上で、「先生」と「わたし」の物語が再開される。あくまでも「わたし」によって。
その態度は、数少ない例である小林信彦の『おかしな男』(渥美清)、嵐山光三郎の『桃仙人』(深沢七郎)に近いが、四方田と由良の関係は、より絶対的であった。


ただ憧憬の対象であり、美しく超然とあった師はひとりの、ある意味でハンディキャップをもった人間であった。そしてなお、その人は稀有な存在であった。そこに行き着くまでにはその人の永遠の不在が必要だったが、この物語によって、四方田犬彦は恩師・由良君美を偉大な研究者として救いたかったのかもしれない。途中、「間奏曲」として登場する、ハイデガーを世に残したハンナ・アーレントのように。


広島東洋カープ前田智徳、2000本安打達成。もらい泣き。