東京brary日乗

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『近代ヤクザ肯定論』について

この本に感銘を受けたのは、ここに書かれているテーマが著者にとって最も大切な、どうしてもクリアしておかなければならない事柄であり、それを書くために非常な努力をしているからである。


普通、やくざは(美化されることはあっても)表向き肯定されない。やくざの是非について、わたし自身は判断基準をもたないが、一般にはよくないものである。
しかし、著者は善悪で判断しがたいところでやくざのポジションをたしかなものと考えている。それがどういうものであるか、居直りや正当化でなく、徒なノスタルジーによる美化(やくざと侠客と暴力団は違う説など)に逃げるでもなく、正確に人に伝えるにはどうしたらよいか。


好奇心をくすぐるような「ネタ」はできる限り封印し、軸をしっかり保ちながらひとつひとつの事象と、そのつながりを明らかにしてゆくこと。対象と真摯に向き合うこと。何のためかといえば、大事なことを正しく書くために。
たとえば、港湾業務を基盤とした山口組において、コンテナが何をもたらしたか。人力や人足の仕切りを必要としない輸送の合理化は、組のあり方を変える。事業だけではなく、組織のスタイルや、場所や、思想を変える。それは日本の社会構造をも変える。


謝辞が贈られているように、編集者の力も感じられる。
終わりに向かうにつれて、気持ちがほとばしるのは許されよう。いいか悪いかではなくて、それがなぜあって、どう機能したのかを宮崎学は書きたかった。ぶれていない。他人にわかってもらいにくい、しかし自分にとって切実な何かを伝えるための、その包丁さばきに、わたしは共感したのである。

近代ヤクザ肯定論―山口組の90年

近代ヤクザ肯定論―山口組の90年