東京brary日乗

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愛だろ、愛

松島栄一著『忠臣蔵』(岩波新書)は名著の誉れが高いとされている。郊外の家に刊行時の青版(1964年、スピンつき)があったのでときどき読んでいる。松島氏は当時東京大学史料編纂所に勤務しており、その史料考証について定評がある。
その点について判断できないが、文章に何ともいえない魅力がある。

こうして、堀部たちは、ぜひ大石に会わねばならぬ、とおもって準備していたとき、京から原惣右衛門が、潮田又之丞高教と中村勘助をつれて江戸に出てきた。原たちは、大石の考えにもとづいて堀部たち説得しようとしたし、堀部たちは逆に、原たちに江戸の情勢を知らせ、自分たちの立場と考えを説明しようとした。そしてその結果、原たちが堀部たちの考えに近づいてしまった。(『忠臣蔵』67頁)

言葉遣いが平易で、どんどん対象に入り込んでゆくのだが溺れない。しかし、そこには愛がある。愛ゆえに埋もれた藪を分け入る人の告白は胸を打つ。