東京brary日乗

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『「馬力」の運送史』

郊外の家にゆくのにどの本を持ってゆこうかと思い、『馬力の「運送史」』(白桃書房)と目があった。だいぶ前に、図書館のリサイクルでもらった。
早速ひもといてみると、話は池袋のびっくりガードからはじまる。びっくりガードがなぜ「びっくり」なのかについては、たとえばこんなところをみれば、わかったような気になる。今では、説明板もあるらしい。しかし、それらをみてもわからないことがある。


びっくりガードの西口側、今の西池袋一丁目あたり(消防署のあたり)は、かつて「池谷戸」といい、馬力による運送業者の集落があった、と著者の石井常雄先生(明治大学名誉教授)は書いておられる。池谷戸以外にも、豊島にはあわせて15の集落があった。それらは、江東区の砂町についで東京では知られた集落であったにもかかわらず、豊島区の区史にすら触れられていない。石井先生がご存じなのはご専門だからでもあるが、ご実家がそこで馬力を家業となさっていたからである。


線路の轟音に「荷馬車の馬もビックリ」したのは、そういう時代だったということではなくて、そこは鉄道貨物を専門としていた池袋の馬力運送業者が、頻繁に通るガードだった、ということなのである。
まったく知らなかった。


さらに、池谷戸の馬力業者は、前時代は早稲田で神田川の海運をしていたこと、馬力運送は昭和2年まで増加していたこと、空襲時には馬を解放することが禁じられていて、すべて見殺しにせねばならなかったことなど、知らないことばかり書いてある。今もトラック輸送業者の残る砂町や、ついでに小名木川の海運についても書いてある。
江東区の場合は、現在も運送や倉庫業は盛んなのであり、忘れられていない。しかし、江東区の女性史に馬力業者のおかみさんが登場しないので、石井先生は贅沢な不満を述べている。


『「馬力」の運送史』は、東ト協ブックスというシリーズの一冊である。東ト協とは、東京都トラック協会だった。そして、石井先生は「荷車」「二輪車の舵棒」などを「個人蔵」なさっているが、そんなに大きいものばかり、どこに蔵しているのか。何度もびっくりする本なのだった。

「馬力」の運送史―トラック運送の先駆を旅する (東ト協Books)

「馬力」の運送史―トラック運送の先駆を旅する (東ト協Books)