東京brary日乗

旧はてなダイアリー「東京brary日乗」から移行しました。2019/2/28

700円で落とし前をつける

ついに「グラン・トリノ」を観る。ロードショー公開されていたころは、正気を失っていて機会を得なかった。ほかに「ブロードウェイ・ブロードウェイ」「小三治」を見逃している。
グラン・トリノ」を上映していたのは三軒茶屋シネマである。夕方表参道にいたので、都合よく最終回に入る。初めて入った。二本立てのところ、最終回一本で700円。小さなドアをあけ、リノリウムが張られた階段を昇る。昇った先にモギリの女の人がいて、売店を兼ねる。アイスモナカは小島屋ので、小さくて好ましい。


椅子はぼこぼこであるにもかかわらず、2時間近くが経過していることをまったく忘れた。タイトルエンドが現われたとたん、どうしたらよいかわからない気持ちになり、タイトルエンドの時間内に落ち着けない。映画を観て落涙することはあるが、大声で泣きたいようである。


グラン・トリノ」についてはすでに多くの人が書いている(たとえばある青年によるこのレビューはすばらしい)。
ビルディングス・ロマンである。しかし、もはや自分は成長する少年ではなく、落とし前をつけた老人に心を奪われる。老人がフォードの組立工であり、修理の名人であり、工具を扱えるので、(わたしの場合)尚更である。


大スターの映画だが、登場人物も場面も極めて少ない。そのような構造は、最近の日本映画のように、ミニマムである。けれども「そこ」は、「そこだけ」を描いていない。圧倒的な世界観の中に「そこ」がある。歴然とした差がある。大人をなめるべきではない。クリント・イーストウッドは、その落とし前のつけ方において見事な人物と知った。