東京brary日乗

旧はてなダイアリー「東京brary日乗」から移行しました。2019/2/28

シルクの遺産

亡き郊外の主は、晩年に一着だけよそ行きの服を作った。元気だったときに香港で買ってきたとおぼしきシルクのプリントで、光沢のあるカーキ色の地に白、黒、オレンジの鳳凰と唐草の模様が入っている。スタンドカラーでチャイナドレス風ながら、楽に着られるようにファスナーをつけず、胸元を一か所ボタンでとめるサックドレスに仕立ててある。が、実態としては「長袖のアッパッパ」であった。どちらかといえば、大屋政子を彷彿とさせる。
処分せずに引き取ったのは、これともう一着だけである。もう一着のほうは、上等だから直して着ろと言われていたが、ぜんぜん似合わないから直さないで、「アッパッパ」の方を直した。
サイズを合わせて、背中ファスナーのシンプルなワンピースにするだけだが、肩、袖、身頃とあらゆるボリュームをとるので大仕事である。洋服の直しは銀座で頼んだこともあるが、近所の「マジックミシン」にした。近所の「マジックミシン」に10年前から変わらずにいる、非常に控えめで無口な人は、銀座の店より仕事が早く、婦人ものの仕上がりはむしろよい。しかもずっと安い。
できあがったワンピースは、オーダーメイドのようにぴったりではなかったが、ほぼ問題なく着られる状態になった。ぴったりにするには、自分でほんのすこし布をつまんでダーツをいれればよい。黒いチャイナボタンがついていたのも、白いパールなどにかえてもよい。