東京brary日乗

旧はてなダイアリー「東京brary日乗」から移行しました。2019/2/28

登楼の記録

ある南国の人物伝をみていたら、明治のなかばに上京したときの日記がそのまま載っていた。この人が東京を見に行って、戻ってから自分の商売を新しくしたことは知っていたが、行ったのは青年のときと書いてあったので、三四郎のような旅路を想像していた。浅慮というものである。
日記によれば、まず大阪に出て商都、続いて京都で「祇園ポント町等」を見物。そのあと東海道を北上し、静岡では「二丁目小松楼ニ遊ブ」。書生の三四郎は、やむなく同宿した女との間に敷布で結界をつくったが、若い実業家はせっかくの遠出だから、とてもやり放題。
東京に着いたのは出発から八日後であるが、さすがに疲れたとみえ、呉服橋周辺をみたり、上野の建物に驚いたり、「しるこ」を食べたりしてから「出立以来始(ママ)メテ夜早ク寝ニ付」いていた。しかし業界の催しものの前の晩はまた「午後六時ヨリ吉原ニ遊」んでいる(接待の可能性あり)。季節は新暦の九月であるが、吉原は六時ごろ遊べたと思われる。むろん仕事もしているが、視察というものはほぼ昔からかわらないことがわかった。旅程はほぼひと月にわたり、ヨーロッパ周遊並みの大旅行であったことが知れる。