東京海洋大学図書館前の古書問題
爽快な朝。頭は爽快とまでいわないが、ふつうに戻ったから、自転車に資料とパソコンとサンドイッチと水筒を積んで、越中島の海洋大学図書館にゆく。頻繁に通う者にみえないようにしたかったが、守衛所の記録ではわずか3行前に自分の名前があった。しかも守衛さんは、「図書館は31日は休みですよ」と親切に教えてくださり、わたしは既にマークされている。
前回の席には先客がいたが、窓際の席はいくらもある。外の桜は二分咲きである。
途中、休憩のため水筒を持って自動ドアの外に出た。立ったまま紅茶をのみながら何気なく目の前にあるきたない本棚を見ると、ものすさまじい本が並んでいる。比較的レアな岩波新書と岩波文庫と、現代思想のバックナンバー。「みすず」や「海燕」もある。本郷三丁目の人文系古書店の、入口から一歩入ったあたりの棚を見るようである。400円から1000円ぐらいの間。
それらは、不用本コーナーであった。みなさんが、不用な本を持ち寄るのである。どなたか知らないが、これらを捨てずに寄贈してくださった方がある。確かに表面の状態はよくないが、中は経年劣化というやつである。昭和十三年・岩波赤版の久保田万太郎『春泥・花冷え』(季節感あり)、ラフカディオ・ヘルン『心』、葉山嘉樹『淫売婦』いずれも岩波文庫初版などである。脇村義太郎の名著『東西書肆街考』などは、持っているのに捨てられるのがしのびない。
わたしはなぜ、水筒片手にこういう場所に遭遇するのか。
本を拾うのはやめようと思っているのに、あまりに内容が高度なので21点を頂戴し、閉館間近まで作業をしてミヤタ・アルマックスGに負担をかけつつ帰る。出るとき守衛所で退出時間を書かねばならないが、自転車を(重くて)とめられずにいたら、親切な守衛さんは「いいです」といった。
「馬力の運送史」相当とみられる3点
○上野英信『地の底の笑い話』(岩波新書青版)
地の底とは、炭鉱である。「特別キリハの話」「スカブラの話」「ケツワリの話」などが掲載されている(何かはまだ読まないので不明)。たいへん強烈な挿絵がついている。
○市橋立彦『私達の薬局』アテネ文庫・弘文堂
○蝦名賢三『遠藤隆吉伝』西田書店
唯一の図書館蔵書アウトレットである。遠藤隆吉は、わたしが棺桶に入れてもらう予定の本『遅読のすすめ』で、山村修が追跡した人物であり、「濫読する人間の眼の玉は乱れて居る」と喝破した、巣鴨学園の創設者。